Vol.02 モードの系譜図:100年のファッション史を「5つの革命」とブランドで読み解く
私たちが普段何気なく手に取っているブランド品。しかし、それらが「なぜ今の形になったのか」を考えたことはあるでしょうか?
例えば、シャネルのジャケットがなぜジャージー素材なのか。プラダがなぜナイロンを使い始めたのか。それらは単なるデザインの気まぐれではなく、その時代の「社会の変化」や「価値観の革命」に対する回答でした。
ファッションの歴史を知ることは、ブランドの「系譜(Pedigree)」を知ることです。
Vol.02となる今回は、個別のブランドから少し視点を広げ、1900年代から現在に至るまでのファッション史を「5つの転換点」に分けて解説します。
これは、今後『Mode Pedigree』で語っていく数々の物語の、いわば「地図」となるロードマップです。
【第1章】1900s – 1920s:コルセットからの解放と「機能美」
20世紀初頭、ファッションは劇的な変化を遂げました。それまでの女性は、身体をコルセットで締め上げ、動きにくいドレスを纏うことが「美」とされていました。
しかし、第一次世界大戦による女性の社会進出や、旅行ブームがその価値観を覆します。キーワードは「貴族から市民へ」、そして「装飾から機能へ」。
象徴的なブランドと革命
- CHANEL (シャネル)
ガブリエル・シャネル最大の功績は、それまで男性の下着素材でしかなかった「ジャージー」をドレスに採用したことです。コルセットを追放し、女性の身体を解放した彼女のスタイルは、まさに「自由の象徴」でした。 - Louis Vuitton (ルイ・ヴィトン)
鉄道や蒸気船での移動が増えたこの時代。馬車用の丸いトランクではなく、積み重ねられる「平らなトランク」を発明し、旅のスタイルを革新しました。
【第2章】1940s – 1950s:オートクチュールの黄金期と「構築美」
第二次世界大戦が終わると、人々は平和の象徴として再び「優雅さ」や「贅沢」を求め始めました。機能性一辺倒だった戦時中の反動として、たっぷりと布を使ったエレガントなスタイルが復活します。
象徴的なブランドと革命
- Christian Dior (クリスチャン・ディオール)
1947年に発表された「ニュールック」。なだらかな肩のライン、絞り込まれたウエスト、そして花のように広がるスカート。それは戦争の欠乏から脱却し、女性らしさの復権を高らかに宣言するものでした。 - Balenciaga (バレンシアガ)
「クチュール界の建築家」と呼ばれたクリストバル・バレンシアガ。彼は身体を服で締め付けるのではなく、服と身体の間に計算された「空間」を作ることで、新しいシルエット(コクーンシルエットなど)を生み出しました。
【第3章】1960s – 1970s:プレタポルテの台頭と「色彩の爆発」
若者文化(ユースカルチャー)が世界を席巻した時代。ファッションの主役は、一部の富裕層のための「オートクチュール(高級注文服)」から、大衆のための「プレタポルテ(高級既製服)」へと移り変わります。
ヒッピー・ムーブメントやジェットセット(飛行機で飛び回る人々)の登場により、ファッションはより自由で、カラフルなものへと進化しました。
象徴的なブランドと革命
- Yves Saint Laurent (イヴ・サンローラン)
ブティック「リヴ・ゴーシュ」をオープンし、既製服をモードの主流に押し上げました。また、女性にタキシード(スモーキング)を着せるなど、性別の垣根を超えたスタイルを提案しました。 - Emilio Pucci (エミリオ・プッチ) & ETRO (エトロ)
プッチのサイケデリックなプリントや、エトロのペイズリー柄が登場したのもこの時代。鮮やかな色彩と異国情緒あふれるテキスタイルは、自由を謳歌する新しい時代の空気を象徴していました。
【第4章】1980s – 1990s:価値観の破壊と「ミニマリズム」
バブル景気を背景にした「派手でゴージャス」なパワースーツが流行する一方で、それに対する強烈なアンチテーゼ(反逆)が生まれた激動の時代です。
既存の「美しさ」の定義を根底から覆す、知的で前衛的なムーブメントが起こりました。
象徴的なブランドと革命
- Comme des Garçons (コムデギャルソン) / Yohji Yamamoto
パリ・コレクションに衝撃を与えた「黒の衝撃」。穴の空いたニットや左右非対称の服は、西洋的な美意識(身体へのフィット、左右対称)を破壊し、新しい美の基準を作りました。 - Giorgio Armani (ジョルジオ・アルマーニ)
ジャケットから堅苦しい芯地やパッドを取り除いた「アンコン・ジャケット」を発明。働く男女に、社会的な地位と快適さの両方を提供しました。 - Prada (プラダ)
「高級品=革」という常識に対し、工業用ナイロン(ポコノ)を使ったバッグを発表。「日常的な素材こそがラグジュアリーになり得る」という、ミニマルで知的な革命を起こしました。
【第5章】2000s – 現在:ストリートの融合と「アーカイブ」の時代
そして21世紀。インターネットの普及とともに、ラグジュアリーとストリートの境界線は消滅しました。
ハイブランドがパーカーやスニーカーを作り、過去の名作(アーカイブ)を現代的に再解釈する。私たちは今、あらゆる時代のスタイルがミックスされた混沌と熱狂の中にいます。
象徴的なブランドと革命
- Gucci (グッチ)
トム・フォードによるセクシーなブランド再生を経て、アレッサンドロ・ミケーレによる「折衷主義(デコラティブな装飾)」へ。過去の様々な時代の要素をミックスさせるスタイルを確立しました。 - Louis Vuitton (ルイ・ヴィトン)
マーク・ジェイコブスやヴァージル・アブローの功績により、アートやストリートカルチャーを積極的に取り込み、ラグジュアリーの定義を「ポップ」なものへと拡張させました。
まとめ:歴史という「地図」を持って
100年の歴史を駆け足で振り返りましたが、これらはまだ氷山の一角に過ぎません。
しかし、この「5つの流れ」を頭に入れておくだけで、ブランドを見る目は確実に変わります。
「なぜこのデザインなのか?」「なぜこの素材なのか?」という疑問の答えが、歴史の中に見つかるからです。
次回の『Mode Pedigree』からは、再び個別のブランドやアイテムに焦点を当て、その奥深い物語を掘り下げていきます。
どうぞ、お楽しみに。